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2018年8月30日 (木)

法隆寺に「卍崩し」は無かった―高欄格子は漢式鏡の文様―

法隆寺に「卍崩し」は無かった
高欄格子は漢式鏡の文様[古代史]
【「伏義と媧媧」の図を末尾に追加(2022/5/5)】

はじめに

 この論考は、有名な法隆寺の「卍崩し」・「人字形割束」とされているものは、「卍崩し」には全く関係のない漢式鏡「方格規矩鏡」の文様を高欄に適用したものであることを証明することによって、古代史学界にはびこっている権威に盲目的に追從する悪弊を指摘するとともに、読者に、この「卍崩し」のような古代史村に流れている噂を鵜呑みにしないように、警鐘を鳴らすものです。

法隆寺の「卍崩し」・「人字形割束」とは

Photo

図1 法隆寺高欄の“卍崩し”と「人字形割束」
写真に彩色してわかりやすくしたもの
(白が“卍崩し”、黄色が「人字形割束」)

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高欄の格子は卍(万字)崩しという美しい文様の形に作られました。卍崩しは奈良時代以降は見られなくなります。また人形の割束が使われましたが、日本ではほかに例がありません。しかし中国では、これ以後も卍崩しの高欄、人字形の割束ともよく使われました。(『法隆寺 世界最古の木造建築』P.44、草思社1980
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 このように、法隆寺金堂上重の高欄は、文様が「卍崩し」、束が「人の字形の割束」だと図書などに書いてあると、そうなのかと思ってしまいます。

 しかし、“卍崩し”がわが国では奈良時代以降見られなくなっても、中国の宮殿建築では何故使われ続けているか、その説明はありません。

 なお、「日本ではほかに例がありません。」と書いてありますが、四天王寺の高欄にも用いられています。四天王寺の直線的「人字形割束」(逆Vの字形)のほうが「古形」とされています。

【注意事項(2019/06/03追記)読者の「あ」さんから「四天王寺は復元ですよ」とご教示いただきました(2019/06/02 (日) )。  

Photo_2
図2 四天王寺の高欄

古代史によくある噂

 私がネットで検索した限りでは、誰がこう名付けたか、そう判断した根拠は何かが判明しませんでした。しかし皆、“卍崩し”の高欄格子文様としています。

 上記に掲げた書籍だけではなく、法隆寺の高欄(金堂上重と五重塔)は、格子が「卍崩し」の文様で、束は「人字形割束」とされています。しかし、どれほど権威ある著者が書いていても、これは「(うわさ)」にすぎないのです。

【噂の特徴】

(1)誰が最初に言ったかわからない〔誰が“卍崩し”と命名したかわからない〕。

(2)本当かどうかわからない〔“卍崩し”と判断した根拠が不明である〕。

(3)でも、みんなそう言っている〔書籍もネット情報も、皆“卍崩し”と書いてある〕。

 

 巷(ちまた)では、このようなものは噂として真(ま)に受けないものです。

 ところが古代史の世界では、このような噂が堂々と権威者によって書かれ、修学旅行の中学生にまで観光ガイドが“卍崩し”と説明をしています。噂がますます広がっていくのです。

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 山田君「はい、先生」

 某先生「なんだね?山田君」

 山田君「卍崩しって説明されましたが、卍をどう崩せば卍崩しになるんですか?」

 某先生「(しばしの間)山田君、それはいい質問だ。是非、ガイドさんに聞きなさい。」

 山田君「ガイドさん!卍をどう崩せば卍崩しになるんですか?」

 ガイドさん「ガイドブックに載ってないので、これを書いた方に聞いてください。」

 山田君「・・・」
…………………………………………………………………………………………………………

 卍をどのように崩すと「卍崩し」になるのか、誰も説明されたこともなく、誰が確かめるわけでもなく、「卍崩し」という説明を鵜呑みにして信じている。町の噂は信じなくても、古代史村の噂は、噂であることすら意識されずに、堂々と広まっていく。

 

卍を崩したように見えません

 私は無責任な噂など信じません。なによりも、私には卍を崩したように見えないのです。皆さんはたぶん、“卍崩し”と言われたので“卍崩し”に見えるような(気がする)のかも知れません。「母さん、俺だよ、俺。」と言われたので息子だと思い込んだ母親と同じです。

 刑事に「お前がやったんだ、さっさと白状しろ」と言われ続けると、やってもいないのに自分がやったような気がしてくる、という話を何かで聞いたことがあります(このような話も噂の典型です(1)(2)(3))。

 

自分で確かめよう

 規則性がある幾何学文様というのは規則性があるわけですから、どのようにすれば作れるのかを自分で確かめることができるはずです。大工さんは造っているわけですから。

【問題解決に導く思考】(なぜなぜで三段論法modus ponensを遡る)

 いままで誰も説明できなかったのは、規則がわからなかった、と考えられます。

誰が考えてもわからないのは、考え方が悪かった、と考えられます。

 「考え方が悪かった」という意味は、人の思考力(情報処理能力)はほとんど変わらないので、情報の取り込み方が悪かった、と考えられます。高欄文様の情報の見方が悪かった、と考えられます。

 見方が悪かったとは「見えるままに見ていた」ということしか考えられません。

ここまでくれば問題は解決したも同然です。見えるままに見なければ良いのです。

Tlv_3
時計回りに回転させたら

 

見方を変えれば見える

 そこで、高欄を-90度回転(-は時計回り、+は反時計回り)させて見ると、文様の構造が見えました。

 高欄格子の幅(回す前の「高さ」)が5、高さ(回す前の「横の長さ」)が8で繰り返している文様でした。

 しかも、高さ8を半分の4で分けてみると、上半分(高さ4×幅5)と下半分(高さ4×幅5)は左右反転(裏返し)となっていました。縦8×横5のパターンの繰り返しですが、縦4×横5のパターンを左右反転して下に続けたパターンの連続となっていました。

Photo_3
TLV文様の作り方

 

ローマ字のTとLでできていた

 縦4×横5のパターンは、ローマ字の「T」と「L」でできていました。中国にローマ字?と驚かないでください。T定規指矩(さしがね、曲尺(かねじゃく))です。「規矩」といいます。私はこの文様のある漢式鏡は見慣れていました。「方格規矩鏡(ほうかくきくきょう)」、別名「TLV鏡(英語Bronze mirror with TLV pattern)」という漢式鏡があります。「T」と「L」だけではありません。「」もあります。「人字形割束」これが「V」です。逆さではないか、ですか?いえ、これが使うときの形です。円を描くときに使う「コンパス(ぶん回し)」ですから。法隆寺の高欄(金堂上重・五重塔)は漢式鏡にある「方格規矩文様(TLV pattern)」だったのです。

Tlv_2
漢式鏡「方格規矩鏡」(英語Bronze mirror with TLV pattern

 

法隆寺に「卍崩し」はなかった(結語)

 法隆寺の高欄が「卍崩し」というのは、卍に少し似ている(曲がり角がある)だけで、寺院は卍だからという思い込みによってつけられたのです。法隆寺の文様とは異なる着物などに使う「卍崩し」という文様もありますが、法隆寺のものは「方格規矩(TLV)文様」だったのです。

 中国の伝説による「女媧」は「コンパス(ぶん回し)」をもち、「伏羲」は「指矩(さしがね、曲尺(かねじゃく))」をもっています。中国では、仏教弾圧政権下でも、この「TLV(方格規矩)文様」が宮殿建築で使われ続けたのは「卍崩し」ではないことが周知の事実であったからかも知れません。

伏義と媧媧
40_20220505083001

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法隆寺金堂高欄格子の文様は「卍崩し」ではなかった―法隆寺に見る漢式鏡の文様―20161122 ()
「卍崩し」は無かった―法隆寺の勾欄格子は漢式鏡の文様―2017815 ()

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コメント

四天王寺は復元ですよ…

あ さま
コメントとご教示ありがとうございます。

>四天王寺は復元ですよ

四天王寺が何度も消失していることは存じておりましたが、復元の根拠を確認しなかったことは恥じ入るばかりです。この記事のアップ後に当該記事に注意事項として書き込みます。ありがとうございました。

 今後ともよろしくご教示ください。
(このコメントはコメント表示のトラブル記事の後に書き込んでいます。)

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