古代ギリシアと太陰太陽暦―元嘉暦は「メトン周期」を用いたのか?―
古代ギリシアと太陰太陽暦
―元嘉暦は「メトン周期」を用いたのか?―[暦]
元嘉暦は19年間に7閏を置く「章法」なので「メトン周期」を用いていると思っていましたが、それは早合点であることがわかりましたので報告します。
古代ギリシアで発見された太陽と月の周期の比例関係
周期名(誕生時期) |
発見・考案者 |
特徴や改良点 |
メトン周期 |
B.C.5世紀のアテナイの人 |
19年=235朔望月=6,940日とする。19年に7閏月を入れれば1年と1ヶ月が合うとする(「章法」)。 |
カリポス周期 |
アテナイで活動した |
1太陽年を365.25日として19年=6939.75日。これを4倍した76年=27,759日でメトン周期の4倍より1日減る。235月も4倍して940月=27,759日とした。 1太陽年=27,759日÷76年=365.25日 1朔望月=27,759日÷940月≒29.530851日 |
ヒッパルコス周期 |
B.C.2世紀ころの ニケヤの天文学者 |
カリポス周期をさらに4倍して1日を引き、 304年=3,760月=111,035日とした。 1太陽年≒365.24671日、1朔望月≒29.530585日 |
《実際》 |
|
太陽年=365.2422日、朔望月=29.53059日 |
太陰太陽暦の太陽と月の周期の比例関係
暦名 |
採用時期・選者編者 |
周期の調整メソッド |
古六暦(こりくれき) |
漢代以前 不明 |
「章法」:1章= 19年に7閏月を置く= 235月 |
後漢四分暦 |
後漢 元和二年(85) |
1蔀= 76年= 940月= 27,759日 |
元嘉暦 |
宋 元嘉廿二年(445) |
1太陽年= 222,070(紀日)÷ 608(紀法)=365.24671日 1朔望月= 22,207(通数)÷ 752(日法)=29.530585日 |
《実際》 |
|
太陽年=365.2422日、朔望月=29.53059日 |
元嘉暦の朔望月は、太陽と月の周期が合う(整数になる)最小公倍数と見られる222,070(分子)と一日の長さと見られる7,520(分子)が10で約されていると思われます(邪推です)。
元嘉暦が用いた周期はメトン周期ではなかった
『宋書』卷十三 志第三 律曆下「元嘉曆法」には、常数(定数)が次のようにあります(下線部分と彩色部分の八ヶ所だけをご覧ください)。
…………………………………………………………………………………………………………………………
章歲,十九。
紀法,六百八。
章月,二百三十五。
紀月,七千五百二十。
章閏,七。
紀日,二十二萬二千七十。
度分,七十五。
度法,三百四。
氣法,二十四。
餘數,一千五百九十五。
歲中,十二。
日法,七百五十二。
沒餘,一百九十六。
通數,二萬二千二百七。
通法,四十七。
沒法,三百一十九。
月周,四千六十四。
周天,十一萬一千三十五。
通周,二萬七百二十一。
周日日餘,四百一十七。
周虛,三百三十五。
會數,一百六十。
交限數,八百五十九。
會月,九百三十九。
朔望合數,八十。
…………………………………………………………………………………………………………………………
次は東京天文台の暦Wiki元嘉暦 (げんかれき) / 建元暦†から抜粋しました。
…………………………………………………………………………………………………………………………
〇1太陽年= 222070(紀日)÷ 608(紀法)=365.24671日
〇1朔望月= 22207(通数)÷ 752(日法)=29.530585日
…………………………………………………………………………………………………………………………
「元嘉暦」の下線部分は「章法」ですが、「章法」は閏月の置き方で使っているだけで、太陽と月の周期を合わせるために用いていたのはメトン周期(19年=235朔望月)ではなく、メトン周期を32倍し、太陽年は608年=222,070日とし、朔望月は7,520ヶ月の数値を用いて計算していました(この半分がヒッパルコス周期の304年=3,760月=111,035日です)。すなわち、元嘉暦が用いていたのは「ヒッパルコス周期」だったのです。
これと同じように「後漢四分暦」が用いていたのは「カリポス周期」だったのです。
« 朔望月と月朔―太陰太陽暦の日付― | トップページ | 「蕨手文瓦」の証言―「磐井の乱」はなかった― »
「暦」カテゴリの記事
- 古代ギリシアと太陰太陽暦―元嘉暦は「メトン周期」を用いたのか?―(2023.05.25)
- 朔望月と月朔―太陰太陽暦の日付―(2023.05.17)
- 回帰年と日干支―太陰太陽暦の日干支―(2023.05.11)
- 月の満ち欠け―上弦の月と下弦の月―(2023.05.10)
- 岩波本『日本書紀』の間違った頭注―権威だけではだめ―(2022.05.06)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント