数学の面白さ

2023年1月 4日 (水)

構文論(syntax)と意味論(semantics)―分数同士の割り算―

構文論(syntax)と意味論(semantics)
分数同士の割り算[論理学][数学の面白さ]

 皆さんは、小学生から次のような疑問を尋ねられたらどうお答えしますか?
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「分数同士の割り算は、割る方の分母・分子をひっくり返して掛け算する」って教わったけど、
なぜそのようにして計算するの?
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 この子は「分数同士の掛け算は、分母同士・分子同士を掛け算する」ことは納得しているようです。

(ab)×(cd)(a×c)(b×d)………①

 納得している理由は、「通分」を認めているからと思われます。

(ab)×(cd){(a×d)(b×d)}×{(c×b)(d×b)}{(a×d)×(c×b)}{(b×d)×(d×b)}

{(a×d×c×b)}{(b×d×d×b)}{(a×c)×(b×d)}{(b×d)×(b×d)}(a×c)(b×d)

 

分数同士の割り算(構文論)

 (ab)(cd)(ab)×(d/c)(a×d)(b×c)………②

 上記の式②の下線部分(分子c, 分母d をひっくり返して掛け算する)が疑問となっているのです。

 「通分」を認めているのであれば、そのように説明すれば良いと思います。

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(ab)(cd){(a×d)(b×d)}{(c×b)(d×b)} 〔通分〕
{(1(b×d))×(a×d)}{(1(d×b))×(c×b)} 〔通分の逆(約分)分母と分子に同じものがある〕
(a×d)(c×b)(ab)×(dc) 〔掛け算の逆。分母同士・分子同士の掛け算は分数同士の掛け算で表せる。〕
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 このように「分数の『意味』」など考えずに「式」を変形していくだけで「証明」できます。数学とは構文論で成り立っているのです。数学に要請されることは「整合がとれている」ことと「実際に役立つ」ことだけです。おまけとして加えるとすれば「美しい(「式」になる)」ことです。 

 数学的に証明してあげたとしても、(たぶんですが)小学生は納得してくれない(「なんだかなぁ?」)でしょう。「意味」が分からないからです。

 

分数の意味

 分数(有理数=整数の比で表せる数)の「意味」は、二つ考えられます意味とは無関係に分数の計算は成り立っています)。

 一つは、数量を分けるときの単位(例えば「人」)当たりの数量を表す場合です。

例1 一升(.8㍑)の酒を5で酒盛りすると、一人当たりの飲める量は幾らか(小学生は飲めない)。
.8㍑/5人=18005 (ml/人)360 (ml/人)

 もう一つは、ある数量の全体に対する割合を表す場合です。

例2 ある自動二輪車で、満タン18㍑の15を消費して目的地まで走った。目的地までに要したガソリンの量は幾らか。
18㍑×153.6

 

分数同士の割り算(意味論)

 割る数が整数でなく分数の場合には、つぎのように意味づけられます。

 先の例1の場合を分数同士の割り算にしてみます。

一升(.8㍑)の酒を360ml(0.36)のコップに分けると何杯とれるか。 

(1810 )(3601000 )(95)(925)(95)×(259)

(9×25)(5×9)2555 (杯)

 

 先の例2の場合を分数同士の割り算にしてみます(部分と全体の割合)。

ある自動二輪車で、満タン18㍑の15を消費して目的地までの道のりの23を走った。このバイクの出発点から目的地までに要するガソリンの量は幾らか(いわゆる「燃費(㎞/㍑)」ではありません)。 

(18㍑/5){(23)×目的地までの距離}〔(答え:X㍑/目的地までの距離)はこれででる。〕

{(18×3)(5×3)}{(2×5)(3×5)} 〔通分。「/目的地までの距離」は省略。〕

{(1(5×3))×(18×3)}{(1(3×5))×(2×5)} 〔通分の逆〕

(18×3)(2×5)(18㍑/5)×(32)      〔掛け算の逆〕

〔(18㍑/5)×(32) は {(18㍑/5)2}×3と変形すれば、「目的地までの距離の2/3に要するガソリン量を1/2して、目的地までの距離の1/3に要するガソリン量を算出しておき、それを3倍すれば目的地までの距離に要するガソリンの量がでる」という意味になります。だから2/3の分母分子をひっくり返して(3/2)掛け算するのです。〕

5.4㍑(/目的地までの距離)

2021年12月29日 (水)

こんなこと知らなかった―黄金数φの三題噺―

こんなこと知らなかった
黄金数φの三題噺[数学の面白さ]

 「黄金比」(「1:黄金数φ」という比)と聞けば古代ギリシャの彫刻「ミロのヴィーナス」を思い浮かべる方が多いでしょう。「ミロのヴィーナスは足元からへそまでの長さと、足元から頭頂までの長さなど色々な部分の比が黄金比(1:黄金数φ)になるように作られている。」というのです。黄金数φの値は (1+√5)/2 です。√52.236(=2.23606797749978969640…)ですから、黄金数φ=(1+5)/21.618(=1.61803398874989484820…)。

 「黄金数φの三題噺」と題したのは次の三つの話です。 

《第1話》黄金数φとフィボナッチ数列

 フィボナッチ数列とは、次の三項間漸化式で表される数列です。

n+2 n n+1     (0 0, 1 1, n ≥ 0)

平易に言えば「どの数字も前2つの数字を足した数字」という数列です。具体的には次の数列です。

0、1、1、2、3、5、8、13、21、34、55、89、144、233、377…

 この数列の連続した二項の比(例えば233/144,377/233,etc)のnを∞(無限大)にした時の値がφ(黄金数)になるというのです。Lim(n→∞)Fn+1/Fn=黄金数φ((1+5)/2

 そもそも、連続した二項の比が或る値(r公比)になるというのは「等比数列」にほかなりません。

等比数列の漸化式:Anr×An-1 (r:公比)⇔An/n-1r

 つまり、フィボナッチ数列の連続した二項の比 n+2/n+1=φ(n→∞)なのだというのです。だったら、n+2 n n+1 なのですから、n+2 n n+1で置き換えれば、上式は(n n+1/n+1=φ(n→∞)となります。両辺にn+1をかけると、次式になります。

n n+1=φ×n+1

n→∞ならばn+1=φ×nですから、n+1をφ×nで置き換えれば、上式は次のようになります。

n + φ×n=φ*φ×n

n0 ですから、辺々をnで割ると、1+φ=φ^2 右辺に集めて左辺に移すと

φ^2-φ-10 つまり黄金数φは、次の二次方程式の解の内の正の数ということになります。

x^2-x-1=0 ……(式1)

 上記の二次方程式の解は(1±√5/2 なので、φはその内で正の数(1+√5/2 ということになります。以上はフィボナッチ数列の連続した二項の比が或る値(φ)に収束するということを前提にして計算しています(収束するという証明はしていません)。

 

《第2話》黄金数φとケプラーの三角形

 Wikipedia「ケプラー三角形」には「ケプラー三角形は三辺の比が等比数列となっている直角三角形で、その公比は黄金比φの平方根√φであるような三角形のことである。」とあり、次のような図があります。〔※「黄金比φ」とありますが、φは比(ratio)ではなく数(number)ですので、正しくは「黄金数φ」です。〕

ケプラー三角形Wikipedia「ケプラー三角形」より転載)
Photo_20211229164801
 確かにそうですが、その性質がはっきりしません。次の三角形にその性質が表現されています。
ケプラーの直角三角形
Photo_20211229164901

 直角三角形⊿ABCにおいて、直角の頂点Cから辺ABに垂線を降ろしABとの交点をHとする。このとき、辺AH=辺BC(上図では、その値を1としている)であったと仮定します。

 ⊿ABC⊿CBH〔記号「∽」は「相似」〕なので、

AB:BC=CB:BH ⇔ x:1=1:x-1、外と外、内と内を掛け合わせると、

x(x-1)=1 ⇔ x^2 - x -1= 0

上式は(式1)と同じなので、xの解も同じ(1±√5)/2 で、長さは正なので直角三角形の斜辺ABの長さは、x=(1+√5/2 (=φ)が答えとなります。

 そして辺ACの長さ(b)は「三平方の定理(ピタゴラスの定理)」より、

AB^2 = BC^2 + AC^2 ⇔ φ^2 = 1^2+AC^2 ⇔ AC^2 =φ^2 -1

AC^2=((1+√5/2^2 -1=(1+2√5+5)/4 -1=(3+√5)/2 -1

=((3+√5)-2)/2=(1+√5/2 =φ

AC=√φ (黄金数φの2乗根

 すなわち、直角三角形の一番短い辺BCの長さ(a)を1とした時、二番目に短い辺ACの長さ(b)は√φ、一番長い斜辺ABの長さ(C = x)がφとなるのが「ケプラーの直角三角形」である、というWikipediaの図が導かれました。 つまり、直角三角形の直角の頂点Cから斜辺ABに垂線を降ろした交点をHとするとき、AH=BCとなるのがケプラーの直角三角形であり、その直角三角形の辺の比が1:√φ:φになる、ということです。

 

《第3話》黄金数φと三種の平均値

 三種の平均値と言ったのは、「算術平均(相加平均)」(Arithmetic Mean)・「幾何平均(相乗平均)」(Geometric Mean)・「調和平均」(Harmonic Mean)の三つのことです。

「算術平均」とは、n個の数を加えて数の個数nで割ったもの(ex.二個の場合は(ab/2)です。

「幾何平均」とは、n個の数を乗じてn乗根をとったもの(ex.二個の場合は√(ab))です。

「調和平均」とは、ちょっと計算が面倒なものですが、n個の数のそれぞれの逆数をとって、その算術平均(相加平均)の逆数をとったもの(ex.二個場合は、(1/a1/b/2(算術平均)の逆数 2/(1/a1/bとか、その分子・分母にabを掛けて変形した 2ab/(abなど)です。

 今、直角三角形⊿ABCにおいて、頂点Aから辺ACに降ろした垂線と辺ACの交点をHとするとき、辺ABの長さを(ab)/2とし、辺ACの長さを√(ab)とすると、辺AHの長さ(y)はいくつになるでしょうか(数aと数bの大小関係は、0abとします)。Photo_20211229165701
⊿ABC∽⊿ACHなので

ABAC=ACAH ⇔ (ab)/2(ab) = √(ab)y 、外と外、内と内を掛け合わせると、

y(ab)/2 ab

y 2ab/(ab) 2/(1/a 1/b)(斜辺ABの一部であるAHの長さが数aと数bの「調和平均」となりました。)

 すなわち、直角三角形⊿ABCにおいて斜辺の長さが(ab)/2(数aと数bの算術平均)、直角をなす一辺の長さが√(ab)(数aと数bの幾何平均)という「比」にあるとき、直角の頂点Cから斜辺ABに降ろした垂線と斜辺との交点をHとすると、辺AHの長さが2ab/(ab)(数aと数bの調和平均)になる、ということです。
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 なお、本論とは関係はありませんが、このときの辺BCの長さは(b-a)/2(0<a<b)となっています。
「三平方の定理(ピタゴラスの定理)」より、
AC^2 + BC^2 = AC^2 ⇔ (√(ab))^2 + BC^2 =((a+b)/2)^2
BC^2 = ((a+b)^2)/4 - (√(ab))^2 = ((a^2 + 2ab +b^2)-4ab)/4
= (a^2 - 2ab + b^2)/4 = ((b-a)^2)/4 (0<a<b<c)

∴BC= (b-a)/2
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  さて、ここからが「三題噺」の「落ち」になります。落ちは「図解」になります。この図を見ると「ケプラーの」という個人名の形容詞がついていることに、何となく納得してしまうから不思議です(笑)。
三題噺の落ち図
Photo_20211229170001
 お正月のお屠蘇を飲みながら眺めていただけると幸いです。皆さん、よいお年を、って気が早いか(笑)。

出典はWikipediaと次の動画です。
あの値が登場!算術平均, 幾何平均, 調和平均による直角三角形

《おまけ》平均値の大小関係は次の通りです。
「算術平均(相加平均)」(Arithmetic Mean)>=「幾何平均(相乗平均)」(Geometric Mean)>=「調和平均」(Harmonic Mean)。なお、等号が成り立つのはすべての数が等しい時だけです(ケプラーの三角形を見れば一目瞭然ですけどね)。

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